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刻一刻と並んでいる人が減っていき、遂に僕の番が来た。
僕が彼女の前に立ったとき、初めて彼女はこちらに気付いたようで少しだけ驚いた顔をしたが、すぐにマニュアル通りの対応を始めた。
「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」
僕はそこで一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、徹夜で考えた台詞を口にする。
「スマイルください! テイクアウトで!」
大声を出したことで周囲の視線を一身に浴びて逃げ出したい気持ちに駆られたが、それでも僕の両脚は彼女の返事を聞くまで動こうとはしなかった。
僕が彼女の返事を聞いたのは、たっぷり十数秒がたってからだった。
カウンターの奥から、彼女の小さな笑顔と共に風鈴の音のようにはかなげで美しいけれど、どこか芯の通った声が聞こえたのは。
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