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いつもとは違う、催しに合う黒のスーツを身にまとい、ついでに目許だけ隠れるマスクを付ける幸男。
「……遅い」
明らかなデジャヴを感じながらも、待ち合わせである噴水の前で幸男は待機を続ける。
昼間から一転し、夜の街中はまるで違う世界だった。羽目を外した男女がバカ騒ぎしたり、パフォーマンスをして通行人の目や耳を楽しませる人もいる。可笑しな事をしても多少は許されるし、気にしないという雰囲気が夜にはあった。まるで場違いではない恰好に、幸男が不躾な視線を向けられることはないが、しかし苛立ちは足先に伝わり、神経質に地面を叩く。
「…………」
ちら、と腕時計で時間を確認すると、ちょうど24時を回っていたところだった。集合五分前には必ず到着している幸男は、数分の遅れに厳しい。しかし、相手が長年付き合いのある二人となれば、妥協もする。
巡屋が来たのは5分後で、リエに関しては15分後だった。流石の幸男も堪忍袋の緒が切れたので、巡屋の脛を思い切り蹴りつけた。
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