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「……………」
ひたすら、ボールの打ち出される機械音と。
それを打ち返すバットの音。
幾つか並んで用意されたボックスの殆どが空の、あまり繁盛していないバッティングセンターで。
「………………」
無言で、ボールを打ち返し続ける一人の少女が居た。
同年代の中では長身の部類だろう…その少女-四条貴音-は。
無造作に後ろで纏めた、すみれ色の髪を一球打つごとに払らう…
「………………っ」
何かを振り切ろうとするかのように。
昔から、野球が好きだった。
ただ、良家の子女として生まれ『姫』として育てられた彼女-貴音-にとって。
幾ら好きでも、おおっぴらに…やらせては貰えないもの。
それが野球だった。
だから、
少しでも時間があれば野球の試合(プロアマ関係なく)を観戦し、
少しでも時間があれば
こうやってバッティングセンターで汗を流す。
もちろん、両親がそれに対して良い顔する筈もないのだが。
「……………っ!!」
もう何セット目になるのか、忘れてしまっていたが…その最後の一球を快音と共に弾き返し。
荒い息を吐き出す貴音。
そして疲労感と…えもいわれぬ充足感に片膝をつく。
(…やはり、私は)
「私は野球が好き、ですか?」
そう、ちょうど心を読んだように…貴音の背に投げかけられた言葉。
驚いて振り向く貴音の目に映ったのは、
金網越しに微笑む…
少し跳ね上がった三つ編みの、眼鏡の少女だった。
「好きなことを、好きなだけしたいと思いませんか?四条貴音さん」
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