―2―

4/18
前へ
/88ページ
次へ
私はその場を離れて、おつまみのコーナーに戻った。 この人が『例の人』。 このジュンスと呼ばれている人。 いつも夜遅くに買い物に来て、納豆とプリンと何かを買っていく。 そして、必ず私に話しかけてくる。 いい加減口がきけないと気付いても可笑しくないが、彼は……ジュンスは気付かない。 私はおつまみの補充を終えると、店長とバイト君に挨拶をして仕事を終えた。 もうバスはない時間。 深夜一人で歩いて帰る。 暗くて怖いと言う人もいるが、私はこの方が気分が楽だ。 闇は全てを覆い隠してくれる。 私が声を失ったからと、人は私の表情をよく見る。 いつも笑顔じゃないとダメですか? 私は自分の心の闇まで隠してくれる、この闇と静けさが好きなんです。 「待ってぇ!!」 後ろから声が聞こえた。 ハスキーな声。 もしかしたらと振り向いた。 「待ってくっださぁい!!」 私に何か用事があるのか、例の人ジュンスが走ってくる。 はぁはぁと息を切らせて、私に追いついた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加