よわりめのいとしきみへ

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どこかで予感はしていた。 「何?こんな所に呼び出して」 王宮の裏手にある樹木の森。 ここはこどもの頃に遊んだ二人だけの秘密の場所。 「賭けをしようか」 「…勝ったことあったっけ?」 口元に笑みを浮かべ彼は剣を抜いて、私に剣先を向ける。 こどもの頃、ケンカや賭け事は全て武力行使だった。 いつも彼は真剣で、でも私には勝てなくてよく泣いていたのを思い出す。 「勝つよ、絶対に」 その言葉とともに彼は地面を蹴った。 指をパチンと鳴らせば剣先も届かぬうちに彼は後ろに吹き飛んだ。 「ちょ…なんで対魔具を一つもつけてな…キャ!」 「形成逆転」 近寄った私の腕を引き、彼は私を組み敷いた。 深い碧の瞳が私を捕らえる。 「な…」 「一週間後、西の国との戦いがある。意味、わかるな?」 他の国との戦いとは違い、西の国との戦いは生きて帰れるかわからない。 以前彼自身がいった言葉だ。 「…いかないって、いってたじゃない」 「言えなかったんだよ。今回も殿(しんがり)の将だ」 その言葉が指す意味は。 …多分、生きて帰ってこれない。 流れる涙が地面に吸い込まれる。 私の頬を伝う涙を長い指で彼は拭った。 「好きだ。愛してる」 今まで言えなかった言葉。 互いに伝えられなかった言葉。 「…大嫌い」 降り注ぐ口づけに伝えきれない想い。 今この時だけはどうか。 二人だけの時を。  
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