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いつの戦場でも出兵することに恐れはなかった。
ただ一つだけ後ろ髪を引かれるのはアイツの存在。
何よりも、誰よりも愛してる。
独りになることを嫌う、寂しがり屋な俺の魔女姫。
親に捨てられ、魔女である俺の母によって育てられたアイツとは兄弟のように一緒に育った。
そんなアイツを女として見てしまうようになったのはいつからだろう。
殿(しんがり)を任せられた時、頭をかすめたのは『死』と『アイツの笑顔』だった。
「あんた死ぬね」
「…そんなこと、魔女が言っていいのかよ」
一人で自室に篭っていると、どこからか現れた母が朱い唇で笑っていた。
「いいのよ、1分1秒今この時もめまぐるしく運命は変わってんの。今、私が予言できる未来は今この時見た未来であって、1時間後に見た未来は今見た未来と違うかもしれない。よーは予知は目安、未来っていうのは誰でも変えられるものなわけ」
「そーいうもんかね」
年齢不詳な母は妖艶に笑みを深めると、手をひらひら振りながら背を向けた。
「一人で変えられないなら二人で変えな、童貞」
「っ!うるせぇ!」
ケラケラ笑いながら母は姿を消した。
いつものことだ。
いつも突然現れては突然姿を消す。
それは決まって俺が何かに悩んでいる時であるから末恐ろしい。
一人が二人になったら。
そこに待ち受けるものは何か。
変えられなかった運命の先にあるものはまた一人になったアイツの姿。
一人にはしたくないなら気持ちを伝えなければいい。
けれど、俺は。
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