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まだ事実を認められない俺は、自分の胸に視線を落とす。
さっきは暗くて気がつかなかったが、切開されて縫合されたような痕がある。
「捜し物はこれだね♪」
オッサンがニヤニヤ笑いながら寝台の上に大きなガラス菅を立てる。
中には赤黒い溶液で満たされていてよく見ると拳大より少し大きな肉の塊が見える。
「あ、ひっ……う……」
喉の奥からカラカラに乾いていくような感じがした。
頭では理解してなくても、動物的な本能が告げる。
アレは……
「俺の……心臓……」
ガラス菅にある臓器
その心臓は、ガラス菅の中で今もなお鼓動していた。オッサンはガラス菅の表面を撫でながら上機嫌に喋る。
「この心臓、実は君と違って“まだ”生きているんだ♪」
「……意味がわからない。
俺は……生きてるのか?死んでるのか?」
「心臓は生きていて、貴様は死んでいる」
俺の問いに、ハイデルに抱えられたチワワが答えた。
「今の貴様はリビングデット、俗に言うゾンビだ。
放っておけばそのまま死んだものを、ハイデルが一つのチャンスをお前に与えた」
「チャンス……?」
チワワの言ったことを復唱する。
もはやチワワが喋る事実がどうでもよくなった。
「隆志」
ハイデルが先ほどと変わらぬ気品のある落ち着きのある声で告げた。
「貴方は私の下僕として、この町で【狩り】をしてもらうわ」
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