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手には金属バット
キックボードを乗り回し、フルフェイスヘルメットを被った男が街中を徘徊していた。
黒いジャンパーを蒸し暑い気温でもビッシリと着込み、黒いカーゴパンツに黒いブーツ
この季節では明らかに似つかわしくない男だ。
しかし、最も似つかわしくないのはそこではない。
「そこを右だ」
男の肩に乗っているチワワがそう喋る。
チワワが喋る事態が可笑しいのだが、こんな男の肩にこんな可愛らしいチワワが乗っていることには激しい違和感を覚えるはずだ。
「了解」
チワワの指示通りに次の角を右に曲がり、男は金属バットを振りかぶる。
「―――オラァ!!」
バットを振り抜いた先には人影がある。
ヨタヨタと歩いていて遠目からでは酔っ払いかと思うかもしれないがどこか違和感がある。
そして肉を潰すというよりは、腐った果肉を潰したような気味の悪い音がした。
その違和感を確かめるよりも早く、男は金属バットを振り切った。
男はキックボードから素早く降りて人影から距離をとった。
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