~導入~

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ようやく暖かくなり始め 光の粒を浴びたタンポポは,ふわふわそよ風に揺れる。 私は重たい目を少し開けながら 学校の2階、つまり教室の窓から見下ろしていた。 ここから見下ろすのも最後になるだろう。 心にチクリとなにかがささった。 私、坂下愛理は本日限りで 中学2年生の課程を終了しようとしている。 ソリの合わない担任の 退屈でどうでもよい煩わしい声を頬杖をついて耳に流しながら、 あのタンポポ達に心を惹かれる。 羨ましい……。 ふとその言葉が頭によぎった。 なぜだろう。 自分でもなんでなのかよく分からなかった。 ──ちょうど2ヶ月前だっただろうか。 単身赴任で別居していた父の不幸を耳にした。 とりあえず 葬儀に参加をしたが全く実感がわかなかった。 まるで、他人事のように思えてしまったほどだ。 今まで「父親」という存在が 全くと言ってよいほどなかった。 それもそのはず。 記憶に無いくらい小さい頃に一度会ったきりらしいのだから── ふと物思いに耽っていたのを遮るかのように 忌まわしい授業のチャイムがけたたましく鳴り出した。 耳障りだ。 と同時にクラスメートの大半が、がやがやと一斉に立ち上がる。 やっと終わった。 私はゆっくりと机に両手をついて椅子から立ち上がる。 体が重かった。 指定のダサくて黒い通学バックを カタチだけの大掃除をした後の ホコリの薄く積もるいつものロッカーから 右手で無造作に取りだし、そのまま教室のドアを開けた。
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