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ここは遠い昔に存在した城の玉座。
玉座の周りには、何十人何百人の事切れているであろう鎧を着込んだ亡骸が、部屋の床に所狭しと横たわっていた。
そこに二人の人物が向かい合い、肩で息をしながらも己の得物を目の前の人物から外さない様に確りと得物の柄を握る。
一人は男性。左の耳に羽を象った銀のピアスをし、髪は黒く、腰のちょっと上までの真っ直ぐな髪の毛。
整った顔立ちに優しい目付き。その黒い瞳は全てを受け入れる様に深い慈愛に満ちていた。
一方もう一人の人物は女性。右の耳に羽を象った金のピアスをし、髪は白く、腰よりも下まであるだろう髪の毛をポニーテールにしている。
こちらも整った顔立ちで、僅かに鋭い目付き。ただ今は、その銀灰色の瞳は悲しみに満ち、涙を流している。
男性が口を開く。
『本当に、どうしてこうなったんだろうな』
男性は女性に、笑いながら問い掛ける。
しかし女性は、涙を流しながらキッと男性を睨み付け、己の得物の切先を地面に向け、悲鳴の様に言葉を絞り出す。
『なぜっ……!!なぜ笑っていられるのだ!?今私たちは殺し合っているのだぞ!?頼むから……笑わないでくれ……その笑顔を見るだけで……それだけで私は!!』
『ごめんな。君を惑わすつもりはなかった。でもどうして愛し合い、一生まで誓った僕たちがこうして武器を向け合い対峙してるのかが可笑しくて。皮肉だな』
『私は……私は今でもお前を愛している!!』
『……それは僕も同じだよ。出来るなら、もう一度二人で幸せに過ごしたい』
『だ、だったら!!』
『もぅ……手遅れだ。さぁ、その純白故に血に染まった剣を構えろ。これで幕引きにしよう』
男性は己の持つ漆黒の双剣を構える。左手に持つ剣は逆手に持ち、右手に持つ剣は普通に持つ。
なにも血に染まっているのは女性の剣だけではない。男性の剣も血に染まっているのだが、漆黒が故に分かりにくい。
『しかし……ッ!!キャッ!!』
グサッ。そんな音が女性が先程まで立っていた場所からした。
そこには漆黒の剣が刺さっており、女性は唐突に後ろに避けた所為か尻餅を付き男性を見上げている。
男性は構わず刺した左の剣とは違う方の剣、右手に持つ剣の切先を女性の首に添える。
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