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男性の剣は当たるか当たらないかというギリギリの位置で維持されている。
女性は汗を流し、震え、怯え、恐れ、掴んでいた得物はその手から滑るように落ちた。
男性は構わず続ける。
『構えろ!!』
女性はその声に一瞬ビクッと反応するも、視線を地面に移し俯く。
『私には……出来ない』
その声に生気は感じない。
『失望した』
そして女性に背を向ける男性。
告げられた言葉には、今までの優しさは微量もなく、変わりに冷たさしか感じない。
女性は反応を示さないように見えるが、確かに手の指がピクッと動いた。
『僕が愛した君は、いつだって真っ直ぐで、何事にも正面から立ち向かい、一度決めた事は成し遂げる。そんな芯の通った心の強い女性だった。……でも今は違う。君は腑抜けだ。そんな君を殺す価値はない』
淡々と述べられる言葉は確実に女性を奮い起たせ、再び剣を手にし構える気力を呼び戻し、再び立ち上がり最愛の存在に対峙する。
男性は既に体の正面を女性に向け、微笑んでいる。
『それでこそ君は君でいられる。僕の愛した君でいられる』
『お前のお陰で私は私でいられる。なら私は、最後までお前を愛し、お前に愛されよう!!この身が朽ちようと!!』
『ありがとう。……さぁ、来い!!サン!!』
『あぁ、行(ユ)くぞ!!ルーナ!!』
ルーナと呼ばれた男性に向かい駆け出すサンと呼ばれた女性。
それからどれだけ経ったか。それは数秒か。数分か。数時間か。
何度も何度も得物を打ち合い、心をぶつけ合わせる愛し合う二人。
しかし、決着は唐突に。
お互いに重傷はなく、けれど数え切れない軽傷の傷口から流れる血は僅かながらも合わされば膨大。
お互いに呼吸を整え、無言で向き合う。語るはお互いの視線。お互いに頷き意思の確認をする。
駆け出す為に足を移動させ、靴が床を擦る音が部屋に木霊する。
息を吐き緊張を解(ホグ)し、一気に互いに向け駆け出す二人。
『『はぁぁぁあああ!!』』
これが最後だと語るように声を張り上げ、お互いに得物を操り立ち向かう。
ズサッ!!
一瞬の静寂。
『―――――ッ!!』
『がはっ……』
声にならぬ悲鳴。同時に血を吐く一方。背中から突き出す血濡れの純白の剣。カランッと音を発て落ちる双剣。
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