―始まり―

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     おかしい。  明らかにいつもと違う。  いつもなら視界が光って終わる筈だ。  夢にも関わらず、体中には嫌な汗が噴き出すのが分かる。  これは夢なんだ。それは分かってる。でも動揺せざるを得ない。周りには何もない。だが、一つだけ異質なことがある。  俺は……俺は何で……。 ―あの降ってきた化物の上に座っているんだ?―  しかも化物はボロボロで、どう見ても死んでいる。  こんなの……俺は知らない。  あの記憶の結末は……母と父が喰い殺され、俺は意識を失い、森羅は行方不明。  今の状況と、違いすぎる。  ふと気付けば、周りの風景がまた変わっている。  そこは眼(マナコ)に囲まれた不気味な部屋。天井にも、壁にも、床にもギッシリと敷き詰められたような眼(マナコ)。全てが俺を見ている。  震える。  決して寒いわけではない。……これは恐怖。純粋に怖い。  俺はこの光景に、完全にびびっていた。  これは夢なんだ。早く覚めろ。  そう願えば願うほど、焦り、恐怖が加速する。  その時だ。背後から声をかけられたのは。 「銀」 「銀ちゃん」 「お兄ちゃん」  あの小学校の入学式以来、約十年ぶりに聞いた家族の声。  反応しない方がおかしい。普通の人間なら、迷わず振り向くだろう。もちろん俺も含めて。  異質な状況下での懐かしい声。  もっと警戒しておくべきだった。  バッと振り返る。  自分の浅はかな行動を後悔するのは、想像以上に直ぐだった。    
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