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店長室にはすでに御門さんがいて岩渕篤郎の死体を眺めていた。
「御門さん!」
「……君達か」
「これが岩渕篤郎ですね」
「鋭利な刃物で心臓をひと突き…出血の状態から見て即死だな」
「お金が散らばってますね」
「店員の話によると…この時間はいつも売上金の勘定を行っていたらしく金庫の中が荒らされていることから強盗目的での犯行である可能性が高いと思われる。
現在、盗まれた物がないかどうか調べてもらっている最中だ。
メイドたちの様子はどうだ…?」
「まだ混乱している様子です」
「そうか…」
御門さんは寂しそうに呟いた。
「手広く悪どい商売をやっていた岩渕のことだから…誰から恨みを買っていてもおかしくない。
下手したらヤクザが相手かも…」
「縁起でもないことを言わないでください!怖いんですけど!」
「わたしの実家は極道よ?」
「お嬢…タイムリーすぎます」
新入生たちが引いた気がするが…おかまいなく岩渕の死体を眺めてみると…何かを握っている。
「何か握ってますね」
「どれどれ~?」
岩渕が握っていたのは将棋の駒…平仮名の『と』と書いてある。
「……『と』?」
「あー…これは『と』じゃなくて『金』って読むんだよ。
まぁ、この『と』も『と』に似ているだけで…正しくは『と』じゃなくて漢字らしいんだけどね。
ほら、よくカタカナで『ト』って書いてあるけど…アレは間違いで正しくは『と』なんだってさ~」
「へぇ…」
将棋は疎いから初めて知った。
「――ちなみに…何故ひらがなの『と』に似ている字を使っているかと言うと…歩兵はもっとも多く全ての駒に漢字で『金』と書くのが大変であったため…
『金』を崩して書いているうちに『と』になったと言われている」
「勉強になりますね」
おれは『と』の裏面を見た。
「歩兵…か」
「歩兵は将棋の駒の中でもっとも多く…もっとも弱いとされている駒だが…大事な駒でもある。
昔からずっと…『歩のない将棋は負け将棋』と言われている程…
歩兵は大事な駒でもある。
警察と同じ…一人ひとりに役割があって存在する意味がある。
どんな人間にも当てはまる事だ」
これが岩渕さんのメッセージだとしたら…ちょっと妙だな。
この部屋には『金』を表現できる物は他にもたくさんあるのに…
どうして岩渕さんはこれを――…
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