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暑い日差しが降り注ぎ、蝉が残り少ない日を生きようと鳴く…
そんな並木道を歩いて行く若者の手には様々な果物がある。
しばらく行くと病院に着いた。
「やあ、英樹くん」
「岸本先生…こんにちは!」
「今日もお見舞い?」
「はい。これくらいしかしてあげられることがないですから…」
「あまり思いつめないでね」
「…はい…」
英樹は重い足取りで病室の前まで行き精一杯の笑顔を作った。
「千春、来たよ」
「お兄ちゃん!」
ベッドの上には上体だけ起こして笑顔で英樹を向かえる少女…
傍らには車椅子が置いてある。
「また絵を描いてたのか?」
「うん!絵を描くの好きだから…あっ!お友だちが出来たの!」
「友だち…?」
千春は眩しい笑顔で頷き、風鈴の揺れる窓を指差してみせた。
「たまにね、ネコちゃんが来て…ちはるとお話してくれるの。
ほら!この白いネコちゃんだよ」
「へ~…よかったね、千春」
「うん!」
「リンゴ、食べる?」
「食べるー!」
英樹は千春の笑顔を見てるだけで幸せな気持ちになってくる。
笑顔を見られるだけでいい。
笑ってくれるだけで…それだけで良いと思っていたのに――…
医師から告げられたのは信じ難い言葉で一瞬で頭が真っ白に…
英樹は頭を抱えてうなだれた。
「……現在の日本の医療技術では千春ちゃんを完全に治すことは…不可能だと思った方がいい」
「何とかならないんですか…?」
「今のままではいたずらに延命を続けるだけで完治には至らない」
「そんな…!どうすれば…っ」
「……1つだけ、方法はある」
「えっ…!?本当ですか!?」
「アメリカに一人だけこの症例に携わった医師がいるみたいでね…お金さえあれば何とかなるが…」
「い、いくらですか…?」
「1000万円…」
「――いっ!?……無理です。
そんな大金…とても払えない…」
「すまない…私が無力だから…」
「そんな…!岸本先生には本当に心から感謝しているんです。
身寄りのない僕たちはどこの病院でもすぐにサジを投げられて…
転々としていたところを…先生に拾って頂いて…治療費も滞納しているのに大丈夫と言ってくれて…本当にありがとうございます。
先生に出会わなかったら今頃…」
「それでも私は…っ」
岸本は己のふがいなさを恥じた。
それと同時に憤慨も感じていた。
命を救う難しさを痛感した…――
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