第13話 プロローグ

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暑い日差しが降り注ぎ、蝉が残り少ない日を生きようと鳴く… そんな並木道を歩いて行く若者の手には様々な果物がある。 しばらく行くと病院に着いた。 「やあ、英樹くん」 「岸本先生…こんにちは!」 「今日もお見舞い?」 「はい。これくらいしかしてあげられることがないですから…」 「あまり思いつめないでね」 「…はい…」 英樹は重い足取りで病室の前まで行き精一杯の笑顔を作った。 「千春、来たよ」 「お兄ちゃん!」 ベッドの上には上体だけ起こして笑顔で英樹を向かえる少女… 傍らには車椅子が置いてある。 「また絵を描いてたのか?」 「うん!絵を描くの好きだから…あっ!お友だちが出来たの!」 「友だち…?」 千春は眩しい笑顔で頷き、風鈴の揺れる窓を指差してみせた。 「たまにね、ネコちゃんが来て…ちはるとお話してくれるの。 ほら!この白いネコちゃんだよ」 「へ~…よかったね、千春」 「うん!」 「リンゴ、食べる?」 「食べるー!」 英樹は千春の笑顔を見てるだけで幸せな気持ちになってくる。 笑顔を見られるだけでいい。 笑ってくれるだけで…それだけで良いと思っていたのに――… 医師から告げられたのは信じ難い言葉で一瞬で頭が真っ白に… 英樹は頭を抱えてうなだれた。 「……現在の日本の医療技術では千春ちゃんを完全に治すことは…不可能だと思った方がいい」 「何とかならないんですか…?」 「今のままではいたずらに延命を続けるだけで完治には至らない」 「そんな…!どうすれば…っ」 「……1つだけ、方法はある」 「えっ…!?本当ですか!?」 「アメリカに一人だけこの症例に携わった医師がいるみたいでね…お金さえあれば何とかなるが…」 「い、いくらですか…?」 「1000万円…」 「――いっ!?……無理です。 そんな大金…とても払えない…」 「すまない…私が無力だから…」 「そんな…!岸本先生には本当に心から感謝しているんです。 身寄りのない僕たちはどこの病院でもすぐにサジを投げられて… 転々としていたところを…先生に拾って頂いて…治療費も滞納しているのに大丈夫と言ってくれて…本当にありがとうございます。 先生に出会わなかったら今頃…」 「それでも私は…っ」 岸本は己のふがいなさを恥じた。 それと同時に憤慨も感じていた。 命を救う難しさを痛感した…――
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