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だとしたら、俺の様に永遠の時間を与えられた人間にとって、今がどんなものであるか・・分かるだろうか?
永劫の時間の中で、一日は、一ヶ月は、どれだけの長さに感じるのか。
恐らく・・永遠の時を求めた権力者が想像もしないほどに、一瞬で過ぎ去って行ってしまうものなのだ。
つまり俺たちは決して恵まれてなんて居ない。
贅沢などではない。
むしろ一瞬一瞬を生きることが出来ず、ただ緩慢な毎日を送り大切な物が一瞬で去って行くのを見送る存在でしかない。
そんな、酷く虚(むな)しい存在なのだと俺は思う。
だからこそ、その一瞬を引き伸ばす為に俺は愛した。
その一瞬だけの為に俺は人という物を愛した。
――・・それもまた、結果酷く虚しい事だったのだが。
だからこそ。
俺にはその少女のたった一言に込められた心からの嘆きが、手に取るように分かったのだ。
(死ねない、か)
少女の言葉は、恐らく屋上に居た〝誰か〟に向けられた言葉なのだろう。
しかし果たしてそれが本当にその人物に伝わって居るのか――。
その答えは恐らく、否に近いと言えるだろう。
そんな事を考えていた俺の足は、いつの間にかクルリとその場で反転していた。
そして灰色の髪の少女に向かって踏み出す。
「――ッうぉ!?」
と、一歩踏み出そうとした俺に向けて一瞬で刀が抜き放たれる。
しかし・・抜き放たれる直前に見えた剣筋が、俺を殺す事を目的としていない事を分かっていて、敢てその場に両手を上げて留まった。
(牽制か。
でも、本気じゃないにしろ相当な使い手だな。この子)
伊達に相手も〝死ねない〟だけあるって事か。
何だかそれも皮肉だと思う。
最近では剣術の腕で自分を上回る人間を見てこなかっただけに、やけに血が騒いだ。
……が、今はここで彼女と争っても、不死同士の不毛な戦いを繰り広げるだけに終わるだろう。
フッと息を吐き出すと、俺は唇の両端を吊り上げた。
その俺の表情に、先刻まで泣きそうな顔をしていた少女が怪訝そうに眉をしかめる。
落差のある表情が可笑しくて、噴出しそうになりながら俺は相手に目線で刀を下ろすように命じた。
「………」
最も、従ってくれなければ自分の刀を引き抜くしかないのだが。
または敢て切り伏せられ、死んだふりをするという選択肢もある。
しかし一応痛覚は麻痺して無くなって居るのだが……
まぁ、二番目の候補はなるべくならばやりたいとは思えない。
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