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「………」
暫らく俺と目線を合わせていた少女は、俺に戦う気が無いと悟ったのか漸く刀を引くと、カチリと音を立てて鞘へと刀身を納めた。
なるべくなら、同類である彼女に斬られたく無かった俺はホッと胸を撫で下ろす。
しかしそんな俺の心情などまるで関係ないとでも言いたげに、細身の少女はスッと俺の横を通り過ぎて行こうとした。
「ちょ、ちょい待ちー!」
細い腕を掴み、彼女を止めると『離して』とでも言いたげな強い視線で睨まれた。
だがな、残念ながら俺はそういう女の子の視線に慣れて居る。
そんな事でへこたれる筈も無く、いつも通りの口調で少女に話しかけた。
「ね、ね。
名前は? あと、そのクラスに居る?
……って、赤だから俺の先輩か。んじゃあ、彼氏さんは居る?」
胸元の赤いピンバッジが何よりの証拠だ。
その俺の言葉に不快そうな視線で返され、クッと腕に力が込められた。
殴られるかもしれないが、今度はその手をスルリと俺の手から解放する。
そして、クルリと俺に向かって背を向ける少女にもう一言……
「あ、ちょっと待って。俺の名前はね、常盤 葺っての」
『覚えておいて』と言う俺に、少女はピクリとも反応を見せる事は無かった。
その反応を見て居ると、先刻の激情に満ちた表情が何だか嘘の様で・・
今の彼女が常なのであれば、先(さっき)の表情は一体何がそうさせたのか――凄く興味深い。
だがしかし。
「〝死ねない体〟……か」
その事実が彼女から表情を奪ってしまったのだろうか。
ふむ、と唸った俺は遠ざかる小柄な影に、少しだけ……そう、ほんの少しだけ、この時から興味を持ち始めていたのかもしれない。
朝に感じた嫌な夢の余韻は、この時には既に全て無くなっていた。
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