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あの時、まだ少女だった頃、豊さんの手を取っていたらどうなっていたのだろうか。
やはりこうして…?
幼い夢物語の記憶がよみがえってくる。
あのお話に出てきた湖が、ここだったらいいのに。
「一つだけ、持っていっても大丈夫でしょうか。」
服の隠しから姉の形見の懐中時計を取り出す。
蓋を開ければ、今でも奏でられる美しいメロディ。
「お姉さまの形見の。真実の愛の時計でしたね。それは持っていきましょう。」
軽くこちらに顔を向け、優しく微笑んでみせる。
「ほら、あそこにカァブが見えるでしょう。あの先は二股になっていて、右へ行けば渋谷様のお館、左に行けば国境です。」
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