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緩やかで長いカーブを抜け、 僕を乗せたバスは、山道の途中にある寂れたバス停で静かに停まった。 「お客さん、 本当にここでいいの?」 訝しげに問うバスの運転手に向かって微妙な笑顔でうなずくと、僕は料金を支払いバスを降りた。 途端、降り注ぐ真夏の太陽。 賑やかなセミの声。 あまりの暑さに思わず僕は顔をしかめてしまう。 唯一の乗客だった僕を降ろしたバスは、 重たげなディーゼルエンジンの音を轟かせ、先の見えない曲がりくねった山道へと消えていった。 お盆真っ盛りのこの時期にしては冷たく心地好い風が僕を包む。 やはり、都会と違い山の空気は澄んでいて。 ざわざわと揺れる木々の葉の擦れ合う音が聴こえてきて。 うだるような夏の暑ささえ、ここでは清々しいとさえ思える。 次々に行き交うクルマの音も、 遠くの工事現場の喧騒も、 ここでは無縁だ。 回りには何もない。 民家もなければ、 煩わしい人の気配さえない。 そこにあるのは、 かろうじて舗装された道路と、 鬱蒼と繁る、山森の木々ばかり。 そんな、 山道の途中のバス停。 ここで降りたところで、普通なら行く当てさえないようなバス停。 運転手が不思議がるのも無理はなかった。 ポロシャツにハーフパンツという、ちょっと若者めいた格好にくすぐったい感覚を覚えながら、 僕は、ガードレールから山々を見渡せるその寂れたバス停へと向かってゆっくりと歩く。 セミの大合唱に混じって、スニーカーで踏み付けた小石がざりざりと渇いた音を立てた。image=421344358.jpg
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