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「姫――、姫――。」
私は中庭に生える一本のリンゴの木にいる姫に向かって声をかける。
「こんな処に…。」
「クロス、中庭のリンゴもう食べ頃よ。」
姫は、小さな口でリンゴを一口かじった。
「習い事の時間ですよ。白雪姫!」
「もうそんな時間なの?」
「ですから早く!姫!」
私は太い枝に腰掛けている姫に向かって手を差し出す。
「もう!!姫、姫って!!!2人の時はそんな堅苦しい呼び方しなくて良いのに!」
「私は一介の姫様付きの近衛兵ですから…。」
「ほんとに堅物ね、クロスは。」
そう言いながら姫は私の頬に触れ、私の頬は少し赤く染まった。
「……それに…王妃様が見ておいでです。」
私と姫は王妃様の部屋を見つめた。
「王妃様…。いけない!!急がないと!そうだクロス。後で一緒にリンゴ食べましょう!あーそれと、あなたこの頃つまらないわよ!!昔みたいに普通に相手してくれないと嫌いになっちゃうから!」
姫は、そう言い残すと軽く手を振り笑顔で走っていった。
あれから十年…
あの時の少女は美しく成長していた。
私は幸運にも命を救われた。
いや…それよりも真の幸運は、あの頃から変わらない無邪気で優しい白雪姫と同じ十年を過ごしたことだろう……。
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