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「どうすりゃいい……」
自分一人しかいない閑散とした部屋で、俺――"谷村隆次郎"はただひたすらに怯えることしかできずにいた。
「谷村さーん」
自分の名を呼ぶ声が耳に入った。
「あっ、はい!」
また誰かがドアの向こうにいるようだ。先ほどの借金取りではない。
またも良い知らせではないと察知し、恐る恐るドアを開けると、アパートの大家さんが腕を組んで仁王立ちしていた。
「五ヶ月分の家賃、まだですかぁ?」
「も……もう少し待っててくれませんか!?」
そう返答すると、大家のおばさんは体型に合うような大きなため息を吐いた。
「早くしてくださいよぉ? じゃないとここから出ていってもらいますからね!」
俺の中にあるプレッシャーを膨らませ、おばさんは歩き去っていく。
この家賃は先ほどの借金にまでは及ばないが、それでも俺にとっては辛い額だ。
今就いているコンビニのバイトの給料では、食費として使っていくのが精一杯だった。
まさに、崖に追い詰められた人間だ。
「……あぁ、もう駄目だ……」
つい弱音が口から漏れるが、この状況では仕方のないことだった。
その呟きと共に腹の虫が鳴く。
(腹減ったなぁ……)
空は曇っているが、確かに外からの光が弱くなっていることに気づく。
夕飯の時間が近づいているのだ。
食欲のままに下駄箱の上の財布に手を伸ばす。
しかし、「金を貯めなければ」というもう一つの願望がその動きに歯止めをかける。
食欲に甘えるべきか、借金返済に努めるべきか、悩みに悩む。
その末、導き出した結論は――
「餓死なんか、御免だ!」
固まっていた手を再び伸ばし、財布を掴んだ。
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