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ドアをそっと開け、あの借金取りがいないか警戒しながら部屋を出た。安全を確認し、早歩きでコンビニへ向かう。
頭上の曇り空が俺の落ち込んだ気分を更に落としてくる。
(あぁ、バイク欲しいなぁ……)
風を切りながら横切るバイクを見つめる。免許は既に持っているが、やはりこの財産では買えるものではなかった。
遠ざかっていくバイクを目で追っていたことで足元にある水溜まりの存在に気付かずにいた。
「冷てっ! ……くそっ」
ずっぽりと足が水溜まりに浸かってしまう。びしょ濡れになった靴を思いっきり一振りし、自分の不運さを実感しながらまた歩き出す。といっても目的地はすぐ目の前にあった。
「いらっしゃ――あ、隆次郎か」
クーラーの涼しげな風を受けながらコンビニの中へ入ると、馴染みのある声が聞こえた。
「おう、浩介……」
レジにいるこの男――牧野 浩介(まきの こうすけ)はここで仕事を共にしている――いわゆるバイト仲間だ。
小学校の頃、彼は同級生だったそうだが、失礼ながら俺の記憶には無い。
そういった話を持ちかけられ、彼一人で勝手に盛り上がったのがこの関わりの始まりである。
「どうしたよ? つれない顔してさ」
「あ、いやぁ……」
借金状況に最大の危機が訪れている、なんて言ったら浩介はいつものようにからかい始めるに違いない。
「ん……またドジやったのか!? アッハッハッハッハ…」
彼お得意のからかいが始まった。おまけに、濡れて変色した俺の靴を指差して大笑いする始末。
「おい笑うなっ!」
顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
このまま借金の話に持ち込まれなければ良いが。
「あ~わりぃわりぃ……そんでさ、借金どうなった?」
「げっ!」
あっさりと例の話へ持ち込まれてしまった。
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