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視界の両端に現われたのは二つの部屋の入り口。左右どちらもドアは付いていない。
「左右に分かれろ!」
藤野の指示によって、左の部屋に俺のチーム、右に一方のチームという形で瞬時に二手に分かれた。
彼の作戦の第一段階は上手くいったようだ。しかし、ここからが修羅場だ。
俺たちは咄嗟に室内の物陰に身を置いた。
「マテ! マテ! …………」
直後、マネキンロボットも角を曲がり、部屋の入り口の前を通り過ぎる。同時に、うるさいほど発せられていた奴の声がようやく途切れた。
沈黙の様子からして、上手く巻けたようだ。
危機は去ったとはいえ、このまま留まっているわけにもいかない。
「……様子見てくる」
俺は小声で藤野らにそう告げ、入り口付近へと忍び足で向かった。
「気をつけて」
俺の背中に小さく投げ掛ける千晴に頷きで返す。
ドアの無い入り口から廊下にこっそりと顔を覗かせる。
そこに見えるのは、獲物を見失い、辺りを警戒している鬼。
(そのまま遠ざかってくれ!)
追跡時とは違ってゆっくりとした足取りに変わってはいるが、着実に俺たちから離れていっていた。
「…………?」
ふと向かいの部屋に視点を変えると、あちらのチーム男たちが何やら騒ついていた。
しばらくして、彼らの行動の意味を理解する。
「おい! 止めろ!」
声量を抑えながらも彼らに怒鳴った。
何故なら、連中は今すぐにでも部屋から出ようとしていたからだ。
「まだ動いちゃ駄目だ!」
こちらを見ている様子から、確かに俺の声は彼らに聞こえている筈。しかし、動きを止めようとしない。
無視されているのだ。
なぜ彼らがこの状況でも行動を起こそうとしているのか、何となく検討は着いた。
恐らく、俺たちよりも早くゲームを終えたいからだろう。
このゲームは鬼ごっこであると同時に、他チームとの競争でもあるのだ。
徐々に距離を離しつつあるものの、マネキンロボットは未だに廊下を歩いている。この場から奴の姿が消えたら、部屋から出るべきなのだ。
「……準備いいか?」
一人の男がチームに合図を出した。
俺は必死に中断を求める素振りを送る。
しかし、その行為も虚しく、再び無視され、彼らは飛び出す準備をした。
「やめ――」
「走れっ!!」
その掛け声と共に、遂に4人は無謀にも部屋を飛び出した。
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