第10章 奇跡

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「どうした?」 晃君は優しく言う。 その低い声も、栗色の髪も、あの日初めて会った時のままだ。 綺麗な目に、吸いこまれそうになる。 恋した時のまま、彼は私の前に立っている。 この人は、私のものじゃない。 分かっているのに、切なくて、涙が出そうになる。 「寂しいの」 寂しかった。 晃君を独り占めできないことも、 家族と別れなければならないことも、 こんなに美しいこの世界を忘れてしまうことも、 全部ひっくるめて寂しかった。 「大丈夫だよ」 晃君はそう言って、私の手を強く握り返した。 ああ、なんでこの人はこんなに優しくて、眩しいんだろう。 どうして、出会ってしまったんだろう。 だけど、出会わなければ私は誰かに恋をする気持ちも一生経験できなかった。 本当はずっとこうして晃君の隣にいたい。 でも、それは許されない。 私が今こうしてここにいるのは、きっと神様が最後に与えてくれたご褒美だから。 この人は、茜に返してあげなくちゃいけない。
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