赤い靴 2

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この花、なんて名前なんだろう。 伊織ならわかるかもしれないけど、ぼくは花のことはよく知らない。 昨日、伊織が調べていた扉へ向かってみる。 ノブをひねってみてもやはりドアは開かない。だめだ。 これでも男だし。体当たりを試みてみる。 派手な音を立てるだけでドアはびくともしない。 だめか。 それなら。 ぼくは助走をつけて体当たりをしてみることにした。 でも、助走ってどれくらいつけたらいいんだろう? わかんないな。 後ろを振り返ってみると、通路がまっすぐのびていて、花壇に囲まれるようになっている。 ・・・とりあえずこんなもんで。 ぼくは10メートルくらい離れたところから走り出した。 「痛っ!」 走り出した瞬間、体が思いきり何かにぶつかった。 何? 目の前に冷たくて硬いなにかがある。 よく見るとそれはさっきのドアだった。 一瞬でそこまで走れるはずない。 何が起こったんだ? 今走ろうとした地面を調べてみた。 フツーにコンクリートだ。 何で? さっきまで自分がいたあたりを見る。 やっぱり10メートルくらいの距離がある。 ぼくの足はそんなに早くないのに。 試しに。 ぼくは通路の逆端まで走ってみることにした。 次の瞬間、ぼくは屋上の端にいた。 早い。 ぼくは、昨日のメールを思い出した。 ――少女は誰よりも速く、死刑執行人は誰よりも正しい――― この空間の中では、ぼくは誰にも負けないくらい早く走れるのかも。
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