従者の章 1

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「冗談じゃ、哲也。ちょっとからかったのじゃ。 お前のようなかわいい完成品を、妾とてこれ以上の傷物にしたくないわ。」 からからと笑いながら女王は言う。 俺は未だ立ち上がることすらできない。 俺はかつて、ゲームの参加者だった。 恋人と勝ち進み、なんとか願いを叶えた。 しかし幸せは長くは続かず、いつの間にか俺はこの女の従者となっていた。 精神空間で負った傷は一旦外に出ればリセットされる。 しかし俺が負った傷はリセットされない。 ここは精神空間じゃないし、何より女王がそう望むから。 俺の背中には大きな傷がある。 それ以外にも目立つ傷がある。 全て女王の手によるものだ。 恐い。この女が恐い。 底知れぬ恐怖に心底怯える俺を、女王は再び笑った。 「哲也、妾はゲームを楽しみたいのじゃ。 お前が知っての通り、ゲームの参加者たちは自分に合った役割を担うことになるな。 赤い靴が4代目。 白雪姫が8代。人魚姫は18代だったかの。 妾はそろそろ飽きそう。 このゲームは今回で終わりにしようと思うぞよ。」 女王が冷たく言い放つ。 このゲームの終わりは同時に新しい遊びのはじまりを意味している。 そうなったら、今は女王のお気に入りに身を置く自分ですら、どうなるかわからない。 「だから、」 女王が口角を吊り上げた。 「お前の行動を許すぞよ。 せいぜい、今回のゲームを盛り上げることじゃ。」 つまらんと、妾はお前に何をするかわからんぞ。 からからという女王の笑い声が響く。 頭が割れそうだ。俺は目を瞑った。 再び目を開けた時には、俺は自分の精神空間に戻っていた。 俺の精神空間は病室を模している。 白いカーテンが風にゆらぐ。 白い壁に力なくもたれ、俺は無人のベッドへ目をやった。 「・・・・・・・・・ミハル・・・。」 そよ風に髪をゆらす彼女の幻覚を見た気がして、俺は静かに目を閉じた。
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