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寿司はワタルの好物の一つだ。
いつもは食事しながらお構いなしでツバを飛ばすワタルも、マグロやサーモンを前にすると絶対に大事な話を始めない。
ワタルが本題に入ったのは、ミヅキが甘エビをてにした時だった。
「今日、変なやつに会ったとよ。」
「変なやつ?」
「ああ、なんやらゲームに詳しかやつったい。
あげんこつ詳しかやつはなかなかおらんばいね。」
ミヅキは息をのんだ。
「それ参加者と違う?」
「わからんたい。
否定しとったけんど、信用はできんとね。」
その場にミヅがいたら。
ミヅキは唇を噛んだ。
ゲームの参加者同士が簡単に会えることは稀である。
ミヅキはこれまでに3組のペアを葬ってきたが、全て相手から襲撃されてきた。
話によると、敵がどこにいるかわかる能力が備わっているペアがいるらしい。
しかし、ミヅキにはそれがない。ワタルにはそもそも能力がないも同然だから、期待できるわけがない。
受け身でいるうちに時間はどんどん過ぎ、参加を決めてから既に8ヶ月が経過していた。
「そげな人どこで会ったと?」
「店の客ばい。
東京から出張だとよ。」
東京。
嫌な予感がよぎる。
まさかまたこの男は・・・。
ミヅキは目を瞑ってしまいたいと思った。
そしてその予想は的中してしまった。
「東京ば行くたい!」
ワタルは大きく宣言した。
いつも細められている目がキラキラと輝いている。
厄介。チョー厄介なんですけど。
「いつ」
ワタルは鼻の穴を膨らませて言った。
「明日にでも!」
ミヅキは頭を抱えた。
これマジメにどーしよ。
つけっぱなしのテレビでは、ミヅキの大嫌いなタレントがノー天気そーに不況についての高説を振りかざしている。
やべー、いつもの7倍ムカツク。
「店は?」
「飛ぶ!」
だめだこいつ。
今回はもう何が何でも行く気だ。
敵と戦うには、相手の精神空間に潜り込むか、直接対決を申し込むかしなきゃいけなくて、どちらも敵を見つけなきゃいけないから、人の多い都会は確かに有利だけどー。あー。うー。
でも、ミヅたちにはけってーてきに足りないものがあるじゃん。
ミヅだって行けるもんなら都会でビューティフルライフ送りたいっつーの。
あのねー、ワタル。
「お金は?」
「あ・・・。」
ワタルはみるみるうちに萎んだフーセンみたいになった。
でも正論じゃない?家賃すら危うい底辺のカツカツ青少年なうちらに東京への旅費なんてあるわけねーし。
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