人魚姫 1

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「もう面倒みきらんたい。 別れよう。」 「ミヅ!」 絞ったようなかすれた声が響いた。 こんな声は初めて聞く。 今までのミヅなら許したかも。 でももー堪忍できない。ムリだよ。 「自白でもなんでも勝手にしらん。もうムリ。」 癇癪を起こしたワタルが馬鹿みたいに捨てたから、ミヅの荷物はほとんどない。 カバンだけ持っていったらいーかな。 些細なガラクタはもう、勝手に捨ててくれたらいーや。 そんなことを思いながら部屋から出ようとすると、ワタルがしがみついてきた。 「そげなことされたら戻ってたな、今までは。」 「ミヅ、ミヅキ。行くな。」 「もうムリたい。止めるんやなか。」 そう言った瞬間、胴に回されていた手が上へのぼった。 「ミヅ、裏切ると?」 低い声、冷や汗が流れる。 ヤバイ。このパターンは。ダメだ。 抵抗しようとしたけど、爪が首に食い込む。 ワタルは言葉にならない叫び声を上げている。 ミヅはコイツに言われるままに過ごしてきた。 あんなゲームに身を置くことになったのだってコイツのせいだ。 食い込む指が気道を圧迫する。 息が。できない。 「なしてワシを裏切るとや!」 ―――こんなに愛してるのに! 怖い、怖い怖い怖い。 殺される! そう思った瞬間指が弛んだ。 逃げなきゃ。 そう思うのに体が動かない。 膝が笑う。座り込んでしまった。 「ミヅ。」 ワタルの指が前髪を撫でる。 髪にキスされる。 後ろから抱きすくめられる。 どれもこれも昔のミヅが喜ぶ仕草だった。 「おまんは裏切らんたい。違っとーと?」 優しい声をかけられて涙が滲む。 逆らったら今度こそ殺される。 コイツはもう一線を越えた。次はない。 嫌な汗が止まらない。 「な?ミヅ?」 慌てて首を振った。 ワタルは安心してミヅにもたれ掛かってきた。 ワタルの手がミヅをワタルのほうに向ける。 ワタルは笑っていた。 なのにミヅにはその目がこっちを値踏みしているように見える。 怖い。 逆らえない。 殺される。 もうミヅには無理矢理笑顔を作ることしかできなかった。
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