ヘンゼルとグレーテル 2

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「育!危ない!」 「健!」 ガラスの割れる音と悲鳴が響く。 自分が突き飛ばした弟を目で追うと、育は少し離れた場所で震えていた。 どこかで打ったのか、額から血を流していて、さらに顔色は悪いが命に関わるような外傷はなさそうだ。 安堵すると同時に激しい痛みを覚えた。 痛い。――どこが? 右側頭部、右頬、右腕・・・。 落ちてきた舞台照明がかすった右半身が特に痛む。 しかし、傷を受けるはずの背中にさほど痛みを感じない。 なぜだ? 窮屈な首に無理矢理鞭打って後ろを覗くと、見慣れた頭が自分に覆い被さっているのが見えた。 急激に血の気が引いていく。 なぜなら、自分はこの頭を知っている。 優しい手も、暖かい膝も。 自分は知っている。 「・・・・・・母さん・・・」 目覚まし時計が鳴った。 またあの夢だ。10年以上前から繰り返し見る悪夢。 何百回見ても慣れることがない。 呆然とする弟。 声を掛けてくる大人たち。 頭部の中身を剥き出しにした母親。 一生忘れることはない。 自分も、育も。
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