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「育!危ない!」
「健!」
ガラスの割れる音と悲鳴が響く。
自分が突き飛ばした弟を目で追うと、育は少し離れた場所で震えていた。
どこかで打ったのか、額から血を流していて、さらに顔色は悪いが命に関わるような外傷はなさそうだ。
安堵すると同時に激しい痛みを覚えた。
痛い。――どこが?
右側頭部、右頬、右腕・・・。
落ちてきた舞台照明がかすった右半身が特に痛む。
しかし、傷を受けるはずの背中にさほど痛みを感じない。
なぜだ?
窮屈な首に無理矢理鞭打って後ろを覗くと、見慣れた頭が自分に覆い被さっているのが見えた。
急激に血の気が引いていく。
なぜなら、自分はこの頭を知っている。
優しい手も、暖かい膝も。
自分は知っている。
「・・・・・・母さん・・・」
目覚まし時計が鳴った。
またあの夢だ。10年以上前から繰り返し見る悪夢。
何百回見ても慣れることがない。
呆然とする弟。
声を掛けてくる大人たち。
頭部の中身を剥き出しにした母親。
一生忘れることはない。
自分も、育も。
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