ヘンゼルとグレーテル 2

5/7
前へ
/56ページ
次へ
『弟の部屋』に入ったのはいつぶりだろうか。 前に入った時とは大きく様変わりしている。 一緒でないと寝れないと何度も駄々をこねていたぬいぐるみを捨てたことは知っていた。 記憶の中の弟が抱き締めていたお気に入りの毛布も今はもうない。 壁一面に貼られたポスターは、この3年ほど弟の部屋から流れていたバンドのものだろう。 ガラスでできた机には携帯用ゲーム機とソフトが散らばっている。 片付けが苦手なのは記憶の中と同じだ。 背が伸びても外見が変わっても、弟の性質が変わっていないことが、少し嬉しい。 「精神空間を展開するのはお前の部屋からだけにしよう。」 他人の精神空間に侵入するには、精神空間の持ち主がそれを開いた場所の近くまで行かないといけない。 だから、あまり公の場で精神空間を開くのは良くないのだ、と言葉を続けた。 「近くってどんくらい?」 「正確にはわからない。 しかし、家の中であれば感知されることも少ないだろう。」 弟はうーんと唸り、やがて頷いた。 「よくわかんねーけど、とりあえず従うわ。 俺よりお前のがぜってー詳しーし。」 自分は煙草をもみ消し笑顔を浮かべた。 「てか、何でそんなにゲームについて詳しい訳?」 弟にはゲームを始めた初期プレーヤーとしての情報しかない。 戦いに勝っていない以上、それは当たり前で、本来なら自分にもそれだけしか知らされないはずだった。 しかし。 「前調べを少しな。 無謀すぎる冒険は避けたいだろう。」 「フーン。」 自分はそう答えてニヤリと口元を歪ませた。 弟は納得したようなしていないような顔で呟いた。 煙草が短くなっているのが見える。 そろそろ頃合いか。 「早速だが、精神空間を作るぞ。 能力についてもう少し詳しく調べたい。」 弟が頷くのを見て、自分は念じた。 腰を落としていたフカフカのベッドが歪む。 自分は立ち上がり、瞬きをする間に生まれた劇場を眺める。 弟はふんぞり返るようにして客席に腰を落とした。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加