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「そんなことが・・・」
この家の過去を知った俺は言葉が出なかった。
「いい?真くん。この話は絶対に美鈴にはしちゃだめ。またあの子が泣くのをもう私は見たくないの。
それと未保にも同様よ。あの子はああ見えてとても心が弱いの。だから、ね?」
「・・・はい、わかりました・・・」
おそらく先程の男が向井 徹なのだろう。
とてつもないマイナスのオーラだった。
おそらくいままで相当な悪行を行使して続けてきたのだろう。
「あの・・・」
「なに?」
「あの男、向井は未保さん
が”自殺しようとした”って・・・・」
「ああ、それはね・・・」
長女が深呼吸する。
「本当よ。なんであの男が知ってるのかは知らないけれど」
「どうして自殺なんか・・・」
「あの男の言ったとうりよ。未保は私たちの知らないところで自分の無力さにもがき苦しみ、あげくのはてに・・・・リストカットして湯船につけたのよ」
「・・・そんな・・・!だって、あんなに元気なのに・・・」
「あくまで”今は”よ。心が傷ついたのは美鈴よりむしろ未保の方がひどかったわ。
あの子、もともと正義感が強かったから責任を少なからず感じていたのでしょうね。
しばらく部屋から出てこようとしなかったわ。
そして、私も早くそのことに気付いてあげるべきだったのよ・・・私がちゃんと気を配っていれば・・・」
「そんな!沙織さんは二人のために頑張ってきたんです!二人を守るために、美鈴との約束を守るためになぎなたを練習してたんでしょう?」
「・・・ええ、そうね、そうよ、ご名当。そのためにあたしは毎日毎日練習に明け暮れていたわ。
二人を守るという目的のために。
でも、そのおかげで今こうやって約束を果たせたのだから、無駄な努力にはならなかったけれど、ね」
「そう、ですか・・・ですよね・・・」
しばらくの沈黙。
先程から降りはじめた雨が激しくなってきた。
俺はそれ以上彼女に声をかけることができなかった。
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