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俺はまだ小さい頃に川でおぼれたことがある。
一人ボールで遊んでいて、ボールが思わぬ方向に飛んで薮(やぶ)の中に入ってしまい、探していたら足をすべらせて川に落ちたのだ。
深く、流れの速い川だったから周りにいた大人も助けることができず、レスキュー隊も間に合いそうになかった。
しばらくして元々体の弱かった俺は力が尽きて体が川の中にすいこまれるのがわかった。
意識も薄れ、死を覚悟したその時、「オールディン」と名乗る声が頭の中に聞こえたの
だった。
「我が名はオールディン。汝、生きのびたいか」
「・・・生き、のびる?生きたいけど・・・僕は、もう、死んじゃうから・・・無理、だ・・・よ」
「ならば汝、我に命を預けよ。
そして我の与える役目を果たせ。
さすればその命、失うことは今後一切無いだろう」
「助かる、の?・・・・・わかった。わかったよ。
約束は守るから、僕を、僕を助けて・・・!!」
気がつくと俺は病院の部屋で寝ていた。
母親の話によると近所の人が俺を追かけて下流の方に降りていくと、既に岸に上がっていたらしい。
そのとき、俺はあの声がただの死に際の幻聴ではなく、本物なのだということを子供ながらに自覚した。
幸いケガはどこもしていなかったのですぐに退院できた。
だが、ケガはオールディンの力で”無いことにした”のだとあいつは言っていた。
オールディン自身はその素性を明かさない。
というか教えてくれない。
顔も見たことは一度もない。
姿を見せるにも体自体が今は無いらしい。
なぜ無いのか聞くとオールディンは再び口を閉じた。
今現在、俺とオールディンの命、いわゆる魂は一心同体となっている。
そのせいか最近、ケガをしなくなったような気がする。
実際はしてるのだろうが、オールディンがそのたびに”無かったこと”にしているのだろう。
”その命、今後一切失うことはない”というあの時の言葉に嘘は無かったのだ。
ただ、困ったことが一つ、時々俺とオールディンの魂の境界が曖昧になることがある。
そのたびにオールディンが俺の体を乗っとる時がしばしばあった。
そのたびに俺は変なことをしてないか問い正すのだが、
「我を何だと思っている」と逆ギレするのだ。
いや知らねえし。教えてくんねえし。
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