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山田さん、という。
中学に入学してから二年間、片思いに耽る日々だった。
まだ、想いも告げぬどころか、名字で呼ぶ程度の仲である。
顔に似合わす祐馬は奥手であった。
同じく、テニス部の合宿に参加する彼女の事を考えつつ、トイレからロッジへの短い帰路に就く。
「おい、原口。何してる。早よう広場に集まらんか」
ロッジの玄関から声をかけてくるのは、テニス部顧問の猪田だった。
「あ、はいはーい」
軽くなんでもないように返事をするが、顔には、面倒な奴に出くわした、と書いてある。
「はいは一度でいい。斉田はいないのか?」
鈍感な担任はそれには気がつかなかったようだ。
ちなみに斉田とは、部屋でサボりの相談をしていた祐馬の親友である洋次のことである。
「まだ二階だと思うんで、呼んで来ます」
「ああ、頼む」
やや冷めたところのある祐馬は熱血漢な担任が、あまり得意ではなかった。
そそくさと相手にならず相手の返事を背に受け、階段に向かうのだった。
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