4人が本棚に入れています
本棚に追加
暑苦しくて嫌になる猪田のだみ声が今の祐馬には、天使の歌声のように聞こえただろう。
大柄な教師はまさしく彼にとっての天使を伴って現れた。
想い人である山田さんは、愁眉を寄せてドラム缶のような体躯にしがみついている。
こんな時なのに祐馬は、小さな嫉妬が芽生えるのを抑えられなかった。
「無事だったんだな」
「ホントによかった~」
泣いたのだろうか、目を腫らした山田さんは祐馬の手をとって再会を喜んでいる。
「一体何が起こってるんだ?」
喜色が一転、沈痛な面もちになった猪田が肩を落とす。
「わからん。が、誰かが俺の生徒を殺してまわっているみたいだ」
「誰か、って誰だよ。この島には俺たちしかいねえはずだろ?」
猪田からの回答はない。代わりに口を開いたのは山田さんだった。
「霊……、じゃないでしょうか?」
思いがけない単語に二人が不審な顔を向けるのにも構わず、彼女は続けた。
「私、見たんです。白い影があの窓から中に入って行くのを」
彼女が指を指し示す先には祐馬の部屋の窓があった。
「バカな、こんな時に何言ってんの?」
実は不思議ちゃんだった初恋の人に密かに絶望した祐馬が、落胆もあらわに突き放した。
最初のコメントを投稿しよう!