幽霊なんか怖くない

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暑苦しくて嫌になる猪田のだみ声が今の祐馬には、天使の歌声のように聞こえただろう。 大柄な教師はまさしく彼にとっての天使を伴って現れた。 想い人である山田さんは、愁眉を寄せてドラム缶のような体躯にしがみついている。 こんな時なのに祐馬は、小さな嫉妬が芽生えるのを抑えられなかった。 「無事だったんだな」 「ホントによかった~」 泣いたのだろうか、目を腫らした山田さんは祐馬の手をとって再会を喜んでいる。 「一体何が起こってるんだ?」 喜色が一転、沈痛な面もちになった猪田が肩を落とす。 「わからん。が、誰かが俺の生徒を殺してまわっているみたいだ」 「誰か、って誰だよ。この島には俺たちしかいねえはずだろ?」 猪田からの回答はない。代わりに口を開いたのは山田さんだった。 「霊……、じゃないでしょうか?」 思いがけない単語に二人が不審な顔を向けるのにも構わず、彼女は続けた。 「私、見たんです。白い影があの窓から中に入って行くのを」 彼女が指を指し示す先には祐馬の部屋の窓があった。 「バカな、こんな時に何言ってんの?」 実は不思議ちゃんだった初恋の人に密かに絶望した祐馬が、落胆もあらわに突き放した。
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