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室内を見回すと、黒いソファーで眠る大佐を見つけた。
「大佐、起きてください」
どこか顔色が優れない。
具合でも悪いのだろうか。
体を揺さぶると、ゆっくりと瞼が開かれた。
「……誰…だ?」
どこか虚ろな目に、私の姿が映る。寝ぼけているのかしら?
「「……」」
たっぷり五秒間は見つめ合った後、大佐が起き上がる。
「ああ…中尉か」
「はい、起こしてしまって申し訳ございません」
「すまん。寝ぼけていたよ」
力なく笑う大佐。
「大佐。気分が優れないようでしたら、医務室へ行かれては?」
「大丈夫だ。よけいな心配をかけてすまなかったな」
もう一息だ、とわざと元気そうに振る舞う姿が痛々しかった。体調が悪いのに、何故仕事を続けるのだろう。
「…ひとりで抱え込まないで下さい」
その肩に触れると、彼が驚いた表情で私を見上げる。
「私で良ければ、いつでも話し相手になりますから」
「君にそんなことを言われるとはな。今日はずいぶんと優しいんだな?」
いつもなら「早く仕事をして下さい」と一喝しているところだが、今はそれどころではなかった。
「あの、大…」
「失礼しま~す」
私の声はノックの音にかき消される。この声は確か…。
「ようロイ!」
「何ッ…ちょっと待てよ、中佐!」
思わぬ来客に、大佐が顔をしかめる。
「あら、エドワード君?」
「中尉、久しぶり」
片手を上げて会釈する、金髪の少年。
「ヒューズ中佐、今日はどうしたんですか?」
「ハボック少尉から聞いて来た。『今日の大佐はおかしい』とな」
「ただの嫌がらせだ」と私が朝渡した書類を渡される。
(大佐。
私では頼りになりませんか?)
「リザちゃん、今の知っていたか?」
「いいえ。今、初めて聞きました」
「何て言われたんだ?中尉にも言えないことなんだろ?」
エドワード君の言葉に心が揺れた。私にも言えないこととは何だろう。そんなにひどいことを言われたのか、と大佐を見つめた。
「私のことを言われたんですね?」
返事がないのは肯定の証。
「私が女性だから。たかが女性に出来ることなんて知れている、とでも言われたのでしょう?」
「…すまない」
どうしてあなたが泣きそうな表情をするんですか。
「そりゃあリザちゃんに対する嫉妬だな」
「ええ。自分より年下の女性が自分よりも上の立場にいるのが許せないんでしょうね」
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