90人が本棚に入れています
本棚に追加
「いい加減にしてくれないか」
東方司令部内の一室から、怒りの声が聞こえてくる。廊下を歩いていたリザ・ホークアイ中尉は、慌ててその部屋の扉を開けた。
「大佐!?」
どうしたのですか、と言いかけて黙る。
目の前の上司──ロイ・マスタング大佐が、不機嫌そうな表情で電話をしていたからだ。
部下たちも気になるのか、気まずそうな顔でその様子を見ている。
(どうかなさったのかしら…)
私は大佐にあんなに不機嫌そうな表情をさせる人が居ただろうか、と考えていた。
「ハボック少尉、何があったの?」
声をひそめて部下に話しかける。
「さあ…。10分前からああなんスよ」
「相手は誰か分かる?」
「いえ。ハクロのおっさんとかじゃないですか?」
その人物の名前に、私は眉をひそめた。
(…ハクロ将軍、ね)
それはこの上司に大量の書類を回す「嫌がらせ」をする人物だった。
理由は明白。
ハクロ将軍は「若造」である大佐が気に入らない存在だから。
若くして大佐の地位。さらには国家錬金術師の称号を持つロイ・マスタングは、同じ理由で上層部からも「嫌がらせ」を受けたことがある。
「…だから、何度聞かれても答えは同じだ!」
ガチャン!と受話器を置く音が部屋中に響いた。
「中尉」
名前を呼ばれて立ち上がる。
「…何でしょう」
「すまんが仮眠室に行ってくる。…今、手元にある書類は全部終わらせた」
未だに不機嫌そうな声だった。
「了解しました」
扉が閉まり、足音が遠ざかった後、ハボックが煙草を取り出して吸い始める。
「くっはぁ~~( ̄○ ̄;)
やっと解放されたっス…」
マスタング組以外の下官は、苦笑してハボックの肩を叩いていた。
「中尉~何とかしてくださいよ」
「このままではこの一室だけ、氷河期になってしまいますな」
フュリーやファルマンまでもが、私に助けを求める。
「あの口調からして、ハクロ将軍が相手ってことは無さそうね」
「ヒューズ中佐でもありませんね」とブレダが天井を見た。
(…となると、やはり女性関係?)
だが、あの上官があんなに不機嫌そうに女性と話す姿なんて想像できなかった。
「ねえ、あなた達。
今まで大佐が女性とあんな風に話すところ、見たことある?」
自分でもとんでない言葉をいっていることはわかっていた。
最初のコメントを投稿しよう!