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「私の父は錬金術師でしたが、軍人を忌み嫌っていました。
無口で感情を表すのが下手で、誤解されやすい…」
話し始めると、急に周囲の雑音が遠ざかった。
「母が死んだ後の父は部屋にこもることが多くなり、私と顔を合わせても話さなくなりました。それでも私は、父が好きでした。嫌いになんかなれません」
「だからマスタングさんが弟子入りに来てからは、それまで灰色だった日常に色がついたようで…嬉しかったんです」
『今日からお世話になります。ロイ・マスタングです』
「何だかもう一人家族が増えたみたいで楽しかったです。
年の離れたお兄さんって感じでした」
カクテルを口にしながら話を続ける。
「父から与えられた課題を褒められた時のマスタングさんは嬉しそうで、私まで笑ってしまう程でした」
「あいつがねえ…」
横目で中佐を見ると、懐かしそうな目で遠くを見ていた。
「マスタングさんが正式に弟子として認められた日は、久々に豪華な夕食を作りました」
『なあリザ』
『はい?』
『今度、ショッピングに行こうか。何か買ってあげるよ』
『良いんですか?』
『ああ。美味いご馳走のお礼にな』
「…それって…」
「まあ、デートですね」
『あの…マスタングさん』
『どうした?…あぁ、これが欲しいのか』
『お金、大丈夫ですか?』
『これぐらいの金額なら大丈夫だよ』
「何を買ってもらったんだい?」
「背中が空いたワンピースです」
でも背中に『秘伝』が入ってからは、着れなくなってしまった。
もっと着てあげたかった。
もっとマスタングさんに、これを着る姿を見せたかったと泣いたのを覚えている。
「そして、マスタングさんが初めて軍服を着たあの日…」
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