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「俺はあいつの夢を実現するためなら、踏み台にでもなってやるさ」
その発想はなかった。
「自分が死んでも構わないと…?」
「それぐらいの覚悟が必要ってことさ」
「ですが、そんなことを中佐は…」
「望まないだろうな。
馬鹿なことを言うな!って怒るだろう」
あの人は他人を踏み潰して、上を目指すような人ではない。
「ロイは優しすぎるんだ」
「……」
「誰にだって、足りない部分はあるさ。完全無欠な奴なんて存在しない」
それは自分にもわかる。
「だから『俺が踏み台になって、マスタングを押し上げる』」
すごい覚悟だと思った。
同時に、そこまで真剣に考えたことがない自分を恥じる。
(私は今まで、何をしていたのだろう…)
ヒューズ中佐は私よりも、あの人のことを理解している。
「あいつが足りない部分は、俺が補うんだ」
真剣な眼差しに、引き込まれそうになった。
「……ても、良いですか?」
こんなに自分のことを考えてくれる人がいるなんて、うらやましい。
「ん?何だって?」
「その踏み台に、私も加わってもいいですか?」
「リザちゃん…」
私一人では無理でも、この人と一緒なら出来そうな気がする。
「一緒に『押し上げ』たいんです」
「途中で踏み台から抜け出すことは出来ないよ。途中から抜け出したら、そこから全てが崩れ去ってしまうんだ」
わかっている。
そんなことは、わかっているの。
「それでも、良いです」
─私も覚悟を決めないと。
「リザちゃんには『踏み台』よりも『楯』が似合いそうだがな」
「楯ですか…?」
「ああ。あいつが前に進むためには、自分を護ってくれる『楯』が必要だからな」
私が…護る。
「俺が『踏み台になって、下から押し上げる』。リザちゃんは『楯となって背後を護り、前へと進む道を切り開く』んだ。
前と後ろから敵が来ても、俺達が排除すればいい」
すべてはロイ・マスタングを、この国のトップに押し上げるために。
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