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「…それは何ですか?」
執務室へと戻って来たロイに、誰もが同じことを思った。
「これは『笹』だ。
今日は七夕だからな」
初めて聞く言葉に、リザは首を傾げる。何の為に使用するのだろうか。
「ファルマン、解説を」
「…はい。七夕とは、今大佐が持っている笹に願いを書いた短冊を吊るして飾る日のことです」
さすがだな、とロイに褒められて「ありがとうございます」と敬礼をするファルマン。
「その七夕とやらを、軍部内でやる為に持って来たんスね?」
「ああ。異文化を勉強するには良い機会だと思ってな。大総統にも許可を頂いているから、堂々と出来るぞ」
意外な人物の名前に、全員が目を剥いた。
「大総統が、よくお許しになりましたね」
「ここに来る途中で会った」
『マスタング君、それは何だね?』
『これは「笹」というものです。閣下もこれをご覧になるのは初めてですか?』
『この国には無いものだからな。…それで、何のためにそれが必要なんだね』
『七夕という行事がありまして…』
ロイは自分の机に笹を置いた。
「閣下も興味を示されて、笹を何本か差し上げたよ。ご子息のセリム様が喜びそうだな」
「それは良いことをなさりましたね。そういうことなら、午前中に職務放棄したことは大目に見て差し上げます」
いつの間にか拳銃を出していたリザが、にっこりと笑ってそう言った。
「はは、は…(^。^;)」
もしもただのサボりだったら、今頃蜂の巣になっていたに違いない。
「大佐、短冊はあるのですか?」
「用意してあるが、足りなくなるかもしれんな…」
「ねえ兄さん。あれって何だろう?」
「ん?」
鎧を見に付けた少年─アルフォンス・エルリックが、隣に立つ兄に話しかけた。
赤いコートを着た金髪の少年は、これでも国家錬金術師である。
「そっか、今日は七夕だったな。…ウィンリィに笹の一本でも持って帰ってやるか」
にっと笑って、目的地へと歩き出すエドワード・エルリック。
「よう大佐、笹を一本分けてくれ!」
ノックもせずに扉を開けたエドをジロリと睨むロイ。
「…いきなり何だね、君は」
「受け付けに笹が飾ってあったのを見て、きっと大佐が持ち込んだろうなって思ったんだよ」
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