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話が一区切りしたところで、私は敬礼をする。
「大佐、私は業務に戻ります。
まだ仕事がありますので」
「ああ、わざわざ付き合わせて悪かったな」
「いいえ。たまにはこういう息抜きも良いかと」
ふっと笑ってみせると、大佐も優しい笑みを浮かべる。
(…ああ、良かった)
それは私が求めていた笑顔だった。
「…中尉?」
机の上に置かれた手に自分の手を重ねると、漆黒の瞳が私を見た。
「やっと笑いましたね。
私は好きですよ、あなたの笑顔」
いつもの私は、絶対にこんなことは言わない。だから驚いているのだろう。
「…ありがとう」
「何を今さら」
私のこの台詞は、もう口癖になっている。と言っても、大佐の前でしか使ったことがないのだが。
「では、失礼します」
執務室を出て廊下を歩いていると、エドワード君の言葉がよみがえる。
『あんたみたいな上官はあまりいないよな』
『だからその、中尉も大切な人なんだろ?』
部下想いで、優しい人。
「…そんなあなただから、私は副官になったのです」
この人の下でなら、死んでも構わないと考えたこともあった。
「早く大総統になって下さいね、大佐」
それは、いつか現実になる夢─…。
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