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スンホは非常に良く回る舌を持っている。
言論で彼に勝る者は、この隊には居ない。
「はいはいわかってるニンジンだろ? だからどうしたよ」
シェンシュンは眉間にシワを寄せながら面倒そうに答えた。
「一大事ということが解っていないらしいねシェンシュン君。もっとよく考えたまえ。いいかい? 私のスープにだけニンジンが入っていないのだ」
「それが?」
「一大事なのだ! 私のスープにだけニンジンが入っていないのだぞ! 陰謀だ! 策略だ! 誰かが私を貶めたのだ! 私がニンジンの入っていないスープを食するように仕向けた者が居るのだ、シェンシュン君!」
スンホは机をバンっと叩いた。
スープの具にはニンジンだけではなく、野菜という野菜が見境なくぶち込まれていると言っていい。
この隊では調理から盛り付け男の手で行われるので、盛りつけは豪快且つランダムになる。
具のバランスを考えて盛るような男はこの隊にはいないので、運が悪ければ確かに、スンホのような例になることもある。
しかし、それを言えばこれはスンホに限ったことではなく、誰でも同じ境遇になりえるという可能性を証明する。
誰かの皿にはカブがなくて、誰かの皿にはジャガイモがないかもしれない。
第一、スンホは朝食の時間ギリギリに食堂に来たのである。
全員分の皿の中身を確認し、自分の皿にだけニンジンがないと気付くことは不可能に近い。
そもそも一切食事の準備を手伝わないスンホに、あれこれ文句を言う権利はないのだ。
「いいじゃないか、ニンジンくらい。食わなくったって死にはしないよ」
シェンシュンは言って、スープを啜った。
「そうそう! オレなんか野菜キライだしさ~。ニンジン入ってないとかむしろラッキーなんだけど」
朗らかにそう言ったのは、同じ隊のルサンという青年だ。
ムードメーカー的存在で、お調子者な一面も持つ。
「君も事の重大さに気付いていない口だね、ルサン君。これは運云々の問題じゃないんだ、解るかい? 解らないだろうな!」
まくし立てるようにスンホは言い切った。
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