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「新郎……。新婦……。あなた達は病める時も健やかなる時も、互いを愛し思いやることを誓いますか?」
「誓います」
神父の問いかけに重なる二つの声。
花婿と……俺の声。
誰が誓うか!それ以前に、俺は男と結婚するつもりはない!
心の声は、口から出る声には変わってくれない。
「それでは、新郎から新婦へ祝福の杯を……」
花婿が茶色いお団子頭の美女から、銀色の杯を受け取る。
中には無色透明な液体。
この世界……ラークトルーンでは、花婿から渡された酒を花嫁が飲み、その後にキスを交わすことで結婚したと認められる慣わしだった。
「はい……どうぞ」
花婿から手渡された銀色の杯を、俺は白い手袋を嵌めた両手で受け取る。
その瞬間、俺は飛び上がりそうなほど驚く。
杯の中の液体に映ったのは、俺の顔ではなく知らない人物……女性の顔だった。
俺は改めて自分の体に視線を落としてみる。
裕にDカップ以上はある豊満な胸に、あるはずのものがない下半身……ウェディングドレスに包まれた柔らかそうな白肌は、紛れもなく女性の体だ。
なんで……?
止まってしまった思考に構わず、杯を持った手が勝手に動いた。
杯の縁が赤い口紅のついた口に触れ、中の液体が喉に流れていく。
そして、全て飲み終えた瞬間……全身の力が抜けて、俺はゆっくりと後ろ向きに床に倒れ込んだ。
取り落としてしまった銀の杯が床に落ちて、からんからんと甲高い音を立てる。
「きゃああ!?」
「うわああ!?」
「き、救急車を呼べ!!」
人々の悲鳴と絶叫が響き渡る。
「しっかり……くれ!私の……な……」
血相を変えて駆け寄ってきた花婿の声が……遠い。
意識が薄れていく……。目も霞み、人々の声も遠のいて……。
頬を伝う涙の冷たさを感じながら、俺は深い闇へと……落ちていく。
そしてその日、俺は……世界一幸せになるはずだった花嫁は、永遠にその幸せを失った…………。
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