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わずかに遅れて、パキィイィィン、となにかが砕けたような澄んだ音が響く。
光の束になり飛んでいた矢が、緋真の放った言霊によって砕けたのだ。
「お見事です。緋真様」
邦陣が消え、札の中に弓を戻していた緋真は、小十郎の言葉を聞くとむくれた顔をした。
「まだまだだよ。
今日は音の伸びが悪すぎる。
もっと長く綺麗に響くようにしないと」
そう言って空を睨みつける間も、札は緋真の袂に勝手に収まっていく。
先ほどの行為は"祈邦"といい、祝詞を熨せた矢を天…神々のおわす高天原に祈りを届けるための儀礼だという。
緋真の家は、朽木という平安時代から続く由緒正しい陰陽道の家系。
緋真はその唯一の子供なので、一応20代目当主なのだが……当の本人は、
『陰陽師や巫女として生きるより、武士の妻として共に戦うほうが性に合ってる』
と、言って家を出て現在野郎どもの中に女一人で生活している。
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