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米沢城の周りには、いくつかの大きな竹林がある。
その一つ、南の竹林の中程に、政宗は一人でいた。
青の着流しに黒の羽織姿。
そして、手には抜き身の太刀。
隻眼の瞳を閉じたまま、何かを待つかのようにじっと佇んでいる。
鳥のさえずり以外は何も聞こえないこの場所に、一陣の風が通り抜けた。
ほんの僅かな気配を感じ、後ろを向くと同時に
ガキィイィィン
刃がぶつかり合う音が響く。
両者は弾けるように後方へ跳び、距離をおく。
突然襲撃されたのにも関わらず、政宗の顔には笑みが浮かんでいた。
「ha!やっぱりお前は気配消すの上手いな」
動きの余韻で翻る羽織を少し押さえ、刀の切っ先を向ける。
「緋真」
切っ先を向けられた襲撃者――緋真は、体勢を低くすると一気に距離を詰め、下から袈裟懸けに斬りつける。
「おっと!」
切っ先が政宗の額を掠め、前髪が数本、はらりと落ちる。
ギイィイン
ガキィッ
キィイィン
しばらくの間、2人は踊るように刃を交える。
だが、どちらも殺気はなく、むしろ楽しんでいる気配すらする。
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