胎児の夢

4/7
前へ
/7ページ
次へ
  チューーーッ ジジジッ。  私は小指を鼠に噛まれた。  そこから滴った色は、今までの世界に無かった色だった。  そう、その時初めて私にも聞こえた! 鼠の声が! 早く目覚めなくては。  目を覚まして、パレードを見に行かなくては!  目覚めた後の世界、世界、新しい、広い世界、美しい世界!  そこには暖かい紅茶があるのか、ケーキがあるのか、美しい景色が、庭園が、眩しい光が、綺麗な水が、太鼓の音が、血が、襤褸が、鼠が  かじられた私の小指は腐っていたのかしら。  童話の絵本の紙の匂いが、暖炉の薪が、紅茶が、ケーキが ――回転する。  回転する色。  わからない、ここには何も無い。  知っているのに何も知らない。何も見ていない。  あの戦争と殺戮と罪は本物なのに、 私は白痴を気取ってまた別の現実を信じて夢を見たいのね。  だから世界は私を拒んだ。  だからハーメルンの音は私をそっちに連れて行かなかった。  だから私の世界とあの夢のパレードは歓声を上げてさよならを告げた。  霞んだ青い空と私の庭。  世界は徐々霧に包まれついには色を失っていく。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加