胎児の夢

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 目を開くとそこには天井の代わりに真っ暗な宇宙があった。  これが、天体、これが星……ここはどこか。  私は自由のきかない小さなカプセルに足を折りたたんだ胎児のように納められている。  これが罪、これが罰。  パレードの観衆の大歓声とともに私はあの国から打ち上げられ、 それが遠ざかっていくとき、私は本当の意味で戦争も殺戮も罪からも主義や主張、 理想からも無関係になった。  私は宇宙をどれくらいのあいだ漂流したのだろう?  あれから戦争はどうなったのだろうか。  その間に伸びた手足はカプセルにおさまりきれず、もう感覚も失っている。  かすかに動く小指は痛い。 ――ヒメはハクチだ  そう、そうよ。  そうやって何も分からない風を装い自分を護ること、  何も学ぶことなど無かったけれど、そこには父も母もお城も熱いスープも何でもそろっていた。  だけど私にとってはどちらの世界のことも曖昧で、何かを考えようにもやっぱり分からない。  只一つ、私はこの機械の数字の表示されたパネルの意味を理解した。  機械によれば、後一年間漂流してこの先の銀河に何もなかったら 、私は酸素も無意味に供給される点滴も失って死んでしまうのだ。  ……いいえ。 何かがあったとしても、きっと通り過ぎるだけでどこにも辿り着けなどしない。  私の腐った小指からじわり血が滲む。  ただ、ただ苦しい。  カプセルが大きく回転すると私は上下左右を再び失い、この宇宙で今、上に居るのか下に居るのかもわからなくなる。 生まれる事の無い胎動のように。  ああ、一年後。 私は一人終わる。 真っ暗なこの空間で。  宇宙には音も光も無い。 真っ暗でここは寒い。 長い眠りの間に私の知っている星座はどこにも居なくなっている。  オリオン座も北極星も。
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