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「はは、怖……」
怖いと思った。笑えるくらい。
この手の人間は、私が考える人間という生物とかけ離れたものだと脳が警報を発する。
その警報は鈍く強い音を体中に響かせながら、私の体の自由を奪っている。
引きつった笑いは果たして、彼女に気づかれてしまっただろうか。
緊急事態。撤退せよ。逃避せよ。
早くこの場を離れなければ、全身が拒絶反応を示すだろう。
別れを足早に終え、そのまま電車に飛び乗った。
夜が写す私を見ると、徐々に精神が落ち着いた。
うっかりと出てしまった言葉に乗客が反応することはなかったが、誰に聞かれても良いから口に出さなければ、黒い感情に飲み込まれそうで怖かった。
私が怖いのは、彼女か、それとも自分か……。
今まで出会ったことのない人間。
非の打ちどころがない可愛らしい女性。目も口も仕草も。
天然な性格。悪口を言わない。課題などは余裕を持って終わらせる。
のんびりとした雰囲気の中に凛としたものも併せ持つ彼女のことを誰も悪く言わない。
私は最初、彼女を私の知り合いの輪に招き、溶け込ませようとした。結果、彼女は徐々に溶け込んでいる。
引き換えに私は疎外感を覚えた。
なんという道化か。とにかく愚かだ。
私は、あの黒い真ん丸の目でじっと見つめられると、抗えない空気におののく私の心を見透かされているようで我慢ならない。
人間の悪いところが見当たらない、まさに人形みたいな彼女を見ていると、自分がいかに歪んでいるかを自覚させられる。
彼女が何をどう思っているのか読み取ろうとしても、瞬きしない黒い瞳が、口角を上げたほど良い厚さの唇が、小動物のような仕草が、何を語っているのか全く分からない。
その読み取れない存在を恐怖する私が、いつか真っ黒な心で理解できない存在を消そうとする未来が来ないことを願っている。
また反対に、そうなればそうなったで、私の歪な魂が罪悪感に勝って喜んでいるだろう。
最終的にどうなるか分からないが、しばらくはきっと、今日のように綱渡りの状態を続けるに違いない。
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