こっちを向きなさい

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こっちを向きなさい

「今の仲上家と比呂美の間に何か問題があるだろうか?」  眞一郎は自室のベッドの上で現状を整理していた。 ……比呂美はしっかりしている。 料理は出来るし、掃除や洗濯もまめにしていて、だらしないところは何もない。  ただ16歳の少女の一人暮らしは、とにかく物騒なのは変わらない。  幸い比呂美のアパートは、近い。走って10分も掛からないし、何かあった時の合鍵も預っている。  経済的にも問題はないはずだ。 ……比呂美の気持ちは?  比呂美にとっても『ひとりの空間』は、一番安らげる場所であろう。  母と打ち解けている今でも、仲上家より断然、羽が伸ばせるのは間違いない。  比呂美の友達も気兼ねなくアパートに呼ぶこともできる。  比呂美を支えてくれるの何も俺だけじゃない。 ……俺の存在は?  相思相愛とはいえ、同い年の男に見られたくない、知られたくない事は幾らでもあるだろう。  例えそれが相手に嫌われる事ではないと分かっていても。  そういう障壁がなくなるのは、結婚してからの話。  だが、俺らは若い、未熟だ。  自分を抑えきれずに淫らな行為に走るかもしれない。比呂美も同じはず。  でも俺らは抑えきれている。  離れている分、恋しくなることはあるが、逆にこの距離が理性の介在をしやすくしている。   何も問題無いではないか。 ……でも何か、引っかかる…… ……じゃあ、なぜ比呂美は最初から一人暮らしをしない? 仲上家に来ないで。  親父とお袋は何故何も言わない。  比呂美の精神の安定を最優先に考えている?  親父達は、俺にはまだ分からない『何か』を理解しているというのか?  もしそれが分かったとしても、今の俺にはどうすることも出来ない気がする。  そんな気がする。    今の俺には、今の俺に出来ることで、比呂美を守ってやるしかないんだ。  俺に出来ることで、比呂美を……
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