儚き命【高杉】

9/9
前へ
/31ページ
次へ
花を眺めていると桂が三味線を持って戻ってきた。 「ほら、お前のお気に入りの三味線。」 「ああ、ありがとよ。」 桂から三味線を受け取ると俺は空を見つめ三味線を弾いた。 「死んだなら釈迦や孔子に追いつきて  道の奥義を尋ねんとこそ思へ  太閤も天保弘化に生れなば  何も得せずに死ぬべかりけり。」 もう俺の体は持たない………。 桂は俺が三味線を弾き終わると俺の隣で静かに泣いた。 (桂…俺の隣にお前がいてくれて良かった。) 感謝してもしきれねえ。 俺はゆっくりと瞼を閉じて暗闇の中へと沈んで行った。 慶応3年4月14日 高杉 晋作は、桜を見ぬままこの世を去ってしまった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加