初夏、廊下にて。

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 運命だ。それは運命の出会いだ。  自分でもびっくりするくらい衝撃的な出会い。まるで漫画やドラマみたいな出来すぎの、だけど、きっとこの出会いが俺たちにとってベストでベターだった。 初夏、廊下にて。  学校帰りの学生たちで賑わう駅前のファーストフード店。全国へチェーン展開しているそのドーナツ店は、たまに全品百円セールという学生には非常にうれしい期間を設けており、その期間中は近隣の学生どころか足を伸ばしてやってきた奥様方も店内に溢れ返る。大概はお持ち帰りのひとがほとんどだけれど、この時間帯は学生同士の席の奪い合いが実は熾烈だったりするので、友人が席を取りに行き俺はトレイ片手にドーナツを吟味していた。  甘い砂糖を絡めたもの、生クリームをサンドしたもの、ちょっと異色のハンバーグパイ。ひょいひょいといつものメニューをトレイに乗せていくと、端のほうに俺が最も好きなもちもちのあいつを発見しそこへトングを伸ばした。ら、 「あ」 「え」  がつっとトングがぶつかる音と重なったふたつの声。腕を辿った視線の先に、そのひとがいた。  ぱち、と瞬く長い睫毛。さらさらの栗毛は染めているのだろうか。薄い唇は少しだけ荒れているように見えたけれど、触ったらやわらかそう。  あまりにも凝視しすぎてしまったせいか、そのひとはややたじろいだ様子で少し困ったように俺とドーナツを見比べる。  もちもちのあいつはラスト一個。つまり、俺とこのひと、どちらかしか食べられない。  いつもだったら、悪ぃね、とか言ってその一個を俺のものにしていたはずだ。  なのにその日の俺は、 「よ、かったら、ドウゾ」 「あ、どーも」  もちもちなあいつを捧げてしまっていた。  ――これが、俺と小早川光明先輩の出会いだった。 .
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