思考がとろける14時、図書館にて。

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 学生の本分は勉強である。恋だ何だと現を抜かしている場合ではないのだ。一期末試験を控えたこの時期は、特に。  テーブルの上に広げられた数学のノートには、今後使うであろう想像が一切出来ない公式が並べられ、尚且つその公式を使いxやらyやらの値を求めろという。これからの人生でxとyの値を求める場面なんてあるのか。甚だ謎である。  そうは言っても、俺は今しがない高校生であり勉強することが化せられた責務であり、盗んだバイクで走り出すような勇気が俺にあるわけでもなく、つまるところその責務を果たさなければ試験後に控えている夏休みを補習という実にくだらなく無意味な時間でもって消化しなければいけなくなるわけだ。  青い空と白い雲、眩しい太陽の下、小早川先輩とアツイひと夏を過ごし尚且つ夏気分に浮かれてうっかりちゃっかりアバンチュール的な展開へ持ってゆくためには、補習に時間を割くというある意味ベタな展開は絶対に避けなければならない。  ならないのだが。 思考がとろける14時、図書館にて。 「先輩、先輩、ここ」 「ん? あー、ここはぁ――」  テスト一日目を明後日に控えた今日土曜日。全国的にテスト期間に突入するであろうこの時期、静かで空調の効いた県立図書館で俺と小早川先輩はふたり並んでノートを広げていた。  ことの始まりは昨日の帰り。先輩を追いかけ回してばかりいる俺の学業面を心配した先輩のやさしさに付け込んで、勉強を教えてほしいと頼み込んだのである。もちろん、高校三年生という大事な時期に後輩の勉強なんか見てられるかと一蹴される可能性はあったが、先輩は平然と自分の進路を公言し今日の予定にこぎつけたわけだ。 .
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